2017年度 環境部会提言
「身近な環境を理解することが防災教育につながります」
いしかわ教育総合研究所 環境教育部会
部会長 青木賢人(金沢大学)
2015年度の提言では「身近な環境から学ぶ~ローカルとグローバルを行き来する~」として身近な環境に注目して環境教育を行う勧めを,2016年度の提言では「環境教育を通じて子供たちの安心安全を」として環境教育と防災教育の連携の勧めをさせていただきました.講演会やフィールドワークでも,この二つの観点を重視したものを実施させていただき,参加された皆さんには具体的な事例をもとに,その方法論をお伝え出来たのではないかと思っています.
また,今年2017年度も7月に福岡県・大分県に甚大な被害を与えた北部九州豪雨災害をはじめ、石川県でも8月の台風5号では県内各地で降水量の記録を更新したほか,湯涌温泉に続く道路などで土砂災害が発生するなどの被害があったことも記憶に新しいと思います.1月に入ってからは草津白根山の噴火災害も発生しました.また,今年4月には,国土交通省から手取川,梯川における1000年に1度の確率の洪水に関する浸水想定も発表されました.石川の子どもたち(そして未来の大人たち)が自然災害で命を落とさないようにするためにも、教員自身が常に新しい情報に対する感度を高く持ち、災害を「自分ごと」として感じることができるようにしておく必要があると思います.
しかし,その一方で,自分の学校に適応するためには,どこから手を付けていいかわからないという声も寄せられました.そこで,今年度の提言では,過去二年間の提言を補完する意味で,地域の災害やその背景となる環境を理解するためのさまざまなデータに関する情報提供をしたいと思います.これらの情報を参考に,各校の防災計画の見直しや防災教育を進めていただければと思います.
【現在の地域の自然の特徴を把握する】
<土地条件図・治水地形分類図>
https://maps.gsi.go.jp/
土地の表層の地質条件や地形の条件が記載された地図です.地盤の安定性・軟弱性,水害に会いやすい場所などがわかります.上記のサイトから「地理院地図」を表示し,左上の「情報」の小ウィンドウの「全て」→「主題図」をクリックして,「土地条件図」または「治水地形分類図」を選んでください.金沢周辺は土地条件図が,白山市・小松市周辺は治水地形分類図が用意されています.
<旧版地形図・空中写真>
http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1
昔の地図や,飛行機から撮影した昔の写真です.旧版地形図は明治時代から,空中写真は第二次世界大戦後からのものを閲覧することができます.上記のサイトを開くと日本地図が示されます.左側の条件を設定するウィンドウで各種の条件を設定し,地形図や写真を見たい地域の地図を表示すると,データが存在する場所に点が表示されます.点をクリックするとデータを閲覧することができます.
【地域の災害の可能性を把握する】
<石川県・防災ホームページ>
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/kurashi/anzen/bosai/index.html
石川県からのさまざまな防災に関連した情報が発信されているページです.石川県のホームページから,「くらし・教育・環境」→「安全・安心」→「防災」でたどり着きます.
<石川県地域防災計画>
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/bousai/bousai_g/bousaikeikaku/index.html
石川県の最も基本的な防災計画です.災害発生前,発生後などに,県がどのような方針で対応を行うのかが示されています.この県の地域防災計画に対応して,各市町の地域防災計画が定められています.学校所在地の市町の地域防災計画も参照してください.学校に求められている役割も記載されています.
【地震・津波関連】
<都市圏活断層図>
https://maps.gsi.go.jp/
活断層の通っている位置を把握できます.上記のサイトから「地理院地図」を表示し,左上の「情報」をクリックして「活断層図」を表示させてください.さらに「都市圏活断層図」を選択して,地図を拡大していくと断層が表示されるようになります.石川県では「森本富樫断層帯」と「邑知潟断層帯」が分布するとともに,富山県に分布する「砺波平野断層帯」も地震を起こすと石川県に被害をもたらします.解説をクリックすると詳しい利用の仕方がわかります.
<地震ハザードステーション>
http://www.j-shis.bosai.go.jp/
地震が発生した時の震度分布の予測を把握できます.スタートをクリックして地図(J-SHISマップ)を表示させ,左側の「主要活断層帯」にチェックを入れ,「想定地震地図」のタブを開いてください.地図上に表示されている赤枠が活断層です.想定震度を知りたい活断層をクリックすると地図が表示されます.表示される想定震度は,あくまでも「想定」です.実際の震度は想定よりも少し大きくなるかもしれないことに留意し,防災計画を立案する際には,震度階を1つ上で考えておくほうが望ましいです.
<石川県津波浸水想定区域図>
http://www.pref.ishikawa.jp/bousai/tsunami/
石川県内の津波想定のうち,最大浸水深と浸水開始時間の分布が示されています.沿岸の各市町の図が用意されています.
<気象庁震度階級の解説>
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/jma-shindo-kaisetsu-pub.pdf
震度ごとの,人や建物,インフラなどに対する被害の現れ方が解説されています.地震ハザードステーションで調べた震度で,校舎や周辺の地域がどのような被害を受けるのかを想定する際に参照してください.
<液状化しやすさマップ>
http://www.hrr.mlit.go.jp/ekijoka/map/next.html
地質条件に基づいて,地震の際に液状化が起きやすいところを示しています.液状化が発生した地域では震災後の移動が困難になり,負傷者の移送や物資の輸送が困難になることを想定しておく必要があります.
<地震調査研究推進本部 森本・富樫断層帯>
http://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_katsudanso/f057_morimoto_togashi/
森本富樫断層帯に関する様々な情報が掲載されています.特に,将来の地震発生確率に関する解説が掲載されていますので,注目して読んでいただければと思います.
【水害・土砂災害関連】
<気象庁 高解像度降水ナウキャスト>
https://www.jma.go.jp/jp/highresorad/
降水の現況と将来予測(1時間先)について,250m四方のメッシュサイズで表示しています.ピンポイントで降水状況が把握できるので,児童・生徒の屋外での行動に際して活用してもらえればと思います.同じ画面で,雷の状況も把握できます.併せて活用してください.
<石川県河川総合情報システム>
http://kasen.pref.ishikawa.jp/
石川県の河川の水位についてリアルタイムに知ることができます.水害時に校舎や校区内で浸水が想定されている学校では,上記の高解像度降水ナウキャストと組み合わせて,大雨が降っている際の児童・生徒の下校判断に活用していただければと思います.
<気象庁 土砂災害警戒判定メッシュ情報>
https://www.jma.go.jp/jp/doshamesh/
土砂災害の危険性が高まっていることを示す土砂災害警戒情報の発令状況について,5km四方のメッシュで示しています.土砂災害警戒区域を示したハザードマップと組み合わせることで,早めの避難や対応を考えることが可能となります.
<石川県土砂災害情報システム SABOアイ>
http://sabo.pref.ishikawa.jp/
土砂災害警戒情報の発表状況や土砂災害の危険度の現況を知ることができるほか,「土砂災害情報マップ」を利用することで,土砂災害警戒区域の分布をみることができます.土砂災害警戒区域に含まれている範囲では,気象庁から土砂災害警戒情報が発令された際に,早めの避難や対応が必要になります.
<洪水浸水想定区域(手取川・梯川)>
http://www.hrr.mlit.go.jp/kanazawa/mb3_bousai/shinsui/
手取川と梯川について,最大規模(1000年に1度程度)の浸水の際の浸水想定区域,浸水継続時間,最短到達時間想定図が掲載されています.
【火山災害関係】
<白山火山防災マップ>
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/bousai/bousai_g/hakusan_kazan/map.html
白山は,将来的に噴火することが予想されている活火山です.噴火によって,溶岩流,火砕流,噴石,融雪型火山泥流など,さまざまな影響が及ぶと考えられています.また,噴火警戒レベルの上昇に伴い,入山の規制や交通規制などが行われます.こうした情報を地図として見られる白山の噴火ハザードマップです.
<気象庁 火山活動の現況(白山)>
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/activity_info/313.html
火山の活動状況に関する情報は,気象庁のページに掲載されています.2月21日現在の白山は,噴火警戒レベルが1(活火山であることに留意)の段階であることが確認できます.また,噴火警戒レベルが上昇していなくても,通常とは異なった活動が発生すると,このページに説明が掲載されます.最近ではH29年12月6日に火山性地震が急増したい際に情報が公表されました.
「脅しの防災教育」を越えて「共生の防災教育」へ
日本列島は、その地球科学的な立地条件から日常的に自然災害が起こることが避けられない土地です。日本に住み続ける限り,自然を理解し自然災害と付き合うことは,必要最低限の「生きる力」です。一方で、災害をもたらす自然は、人間を生かし社会に資源とエネルギーという恵みをもたらすものでもあります。言い換えれば、災害の原因となる自然現象があるからこそ、私たち人間はこの大地に生きることができるのです。この国に生き住み続けるためには、自然を恐れるのではなく、自然を理解し、自然と共に生きることが不可欠です。防災教育を防災教育だけにとどめるのではなく、環境教育や地域学習と連携させることで、より広く自然を理解し、子どもたちの生きる力を育むことができるはずです。理科・社会など複数の科目にまたがる領域であり、先生方の教材開発やカリキュラム設計に掛かってきます。ぜひ、継続的に災害や環境に係る学習を続けていただければと思っています。